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BLUE ENCOUNTが包んでくれた青春の情景

「ユメミグサ」に寄せて

生きている中で、いくつもの「さよなら」が通り過ぎた。

前を向けよ。大人になれよ。どこからともなく聞こえてくる声に押し潰されそうになる。
次第に、未練や後悔はかっこ悪いものだと擦り込まれていったように思う。年齢を重ねるほど、経験を積むほど、見えないしがらみは強くなった。

人間は大人になるにつれ、なにも感じないフリがうまくなっていくようだ。それは、時に生きやすさにも繋がるのかもしれない。けれど、本当になりたかった姿なのかどうかは、正直よくわからない。
  
閉ざされた夏が終わり、秋の気配を肌で感じ始めた頃、ずっとBLUE ENCOUNT(以下ブルエン)の『ユメミグサ』を聴いていた。

作家・住野よる原作の映画「青くて痛くて脆い」主題歌としてリリースされた楽曲。
このタイアップは、元々ブルエンのファンだった住野よるが直々にオファーしたそうだ。別曲『もっと光を』は「青くて脆くて痛い」原作のイメージソングにも選ばれている。

そんな背景も相まって、この楽曲は青春の色がとても強い。聴いていて苦しくなるほどに。
 
<桜舞うあの日に帰り
あなたをもっと抱きしめてたなら
今でも一緒に歩いてたのかな?>
 
爽やかさと疾走感を打ち出したサウンド。桜の舞いに見立てられたギターの音色。熱量と憂いを器用に重ねた歌声。
それら全てが青かった日々を彷彿させるからこそ、楽曲が発するメッセージはより切実な形で胸に迫る。
 
<僕が描いた夢をあなたに押し付けてたよ
でもいつだって笑顔で背中押してくれたのに
あなたが描いた夢を僕は受け止めもせず
ふと見せる悲しい顔の意味も知らずにいた>
 
桜が一瞬の間で情熱的に咲き誇りて散りゆくように、自分と相手の気持ちが交差する奇跡もまた尊く脆いものだ。
聴いていると伴う胸の痛みは、美しいメロディにのせて切々と綴られる後悔の言葉が、遥か昔に心の奥底へ封じ込めた恋や友情の残像に触れるせいだろう。

未練はカッコ悪いものだった。だから必死に目を逸らし続けた。割り切ったことにするほうが楽だった。

なのに、楽曲を聴いているうちに気付かされる。
 
<大人になんてなれやしないよ
大人になんてなりたくないよ>
 
命を震わせた時間に残る後悔は、不純物なんかじゃないと。
相手を懸命に理解しようとした、夢中で二人の姿を追いかけた、大切な居場所を守り抜こうとした、そこに残る涙は、美しいものだと。

さらにこの楽曲の素晴らしさは、そんな不甲斐なさを受け止めて未来への扉を開くところにある。

サウンドも歌声も後半にかけて加速度的に情感豊かになり、最後のサビ直前、「僕」が手放せなかった青春の日々にさよならを告げるところは、まさに "第一章" のクライマックスと呼ぶにふさわしい。
 
<「僕は何者(だれ)だ」と
わめき散らしても
もう誰も答えやしない
さよなら 青い春>
 
『ユメミグサ』には二つの「月日の流れ」がある。一つは「僕」が思いを馳せる回顧録。タイトルが桜を意味する通り、歌詞中には「桜」や「花」というフレーズがたびたび用いられている。

しかし、これは春の歌ではない。春を回想する歌だ。「あなた」との繋がりが失なわれた春を。淡いセピア色の感触が、もう二度と戻らない時間を連想させる。
 
<初めは同じ場所に咲いた花
少しの雨で花びら落ちてく>
 
そしてもう一つは、ブルエンから見た青春の情景である。メンバーの年齢構成は30代前半。「大人になれやしない/なりたくない」と抗う時代を過ぎた俯瞰的な視点には哀愁が立ち込めている。

映画の世界観に寄り添うべく綴られた歌詞の中、その視点を示しているのはたった一小節だ。
 
<五線譜や言葉じゃ決して伝えられぬほどの
想いを歌わせて>
 
これによって、楽曲の向こう側に映る光景は「僕」が見ている世界だけではなくブルエン自身が見ている世界でもあるのだと気付く。
この奥行きこそが、イヤホンを通して感じる薄いベールのような優しさの正体なのかもしれない。

別れは、辛く苦しく寂しい。一緒に過ごした時間の輝きをすべて覆ってしまうほどに。

けれど、不甲斐ない自分も、孤独に飲み込まれた夜も、引っくるめて受け止められる日がいつかやってくる。
愛した人の存在に、あの頃の二人に「さよなら」ではなく「ありがとう」を。そう言えるようになって初めて、人は生まれ変わり、前へ進めるのだろう。
 
<ありがとう 共に過ごせて
何もなかった僕を 許せたんだ>
  
わずか5分に込められた青春の情景。

恥ずかしいものだ、なんて思って見ないように蓋をした過去の思い出たち。まるでブルエンが「隠さなくていいんだよ」「そのままで大丈夫だよ」と言ってくれているような気がした。
 
<これからやっと大人になるよ
あなたと生きた季節は残して>
 
ひとりの人を狂おしいほど想った季節がたしかにあった。あのひたむきさは、かけがえのないものだった。
甘くて苦い葉桜の記憶に、いつかの自分を重ね合わせる。すっかり色褪せたはずの古傷がほんの少し疼いた気がした。
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