4258 件掲載中 月間賞毎月10日発表
この数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。

いきものがかりを聴かなくなった日

人生のターニングポイントで、いきものがかりが教えてくれること

いきものがかりというミュージシャンを知らない人がいたら、おったまげる。

シングルCDのほぼ全てがドラマや映画とタイアップ。吉岡聖恵、水野良樹、山下穂尊のスリーピースバンド。

水野さんが書く太陽みたいな明るい歌詞、山下さんの鋭くかつあたたかな歌詞、そして、天まで届く吉岡さんの伸びやかな声。「歌が大好き」な気持ちがぐんぐん伝わってくる。

私は、いきものがかりのファン“だった”。
その明るさに心奪われ、コンサートにも握手会にも10回以上足を運んだし、コア中のコアな聖地に無理やり親に連れて行ってもらった。(相模大橋や、サンダースネイク厚木、ビナウォークなど。)インディーズのCDもそろえた。登下校中の寄り道は禁止だったけど、制服でHMVへ走りフラゲは当たり前だったし、真夜中のベランダで、夜風を浴びながらウォークマンから流れるいきものがかりに心酔した。今でも何も見ずに、ほぼ全ての歌を歌える。イントロドンがあれば優勝すらできると思う。

学生の頃の音楽吸収力は最高だ。きっと、どんな人にも、自分のある時代を支えた歌やアーティストがいると思う。わたしにとっては、それがいきものがかりだった。


いきものがかりは、私と父を繋ぐひとつの架け橋でもあった。普段めったに話さなかったが、コンサートには二人で行ったし、新譜を買っては、ギターを弾いてもらった。2010年の「こんにつあー!! in 武道館」で「帰りたくなったよ」のイントロを聴いた途端、泣き出した父を見て、すごく透明な気持ちで、彼の思いの丈に深く思いを馳せることもできた。そんな、副産物的な思い出もある。

しかし、大学に入った頃から、彼らの音楽をほとんど聴かなくなってしまった。

理由は明らかだった。「今の自分には、いきものがかりの明るさが眩しすぎる」と思い、自然と距離ができたのだ。新しい環境の中で、新しい苦しみを乗り越えるためには、他の音楽が必要になった。それは、暗くてハッピーエンドではないもの。前向きではないもの。いきものがかりとは、正直、真反対の音楽を好むようになっていった。

その時、ちょうど父とも別々に暮らすようになり、いきものがかりが生活に存在するきっかけすら、無くなってしまった。

たまにCMから聴こえる、彼らの歌に懐かしさを感じて、もうあの明るかったあの日々に戻れないんだなぁと、ぼんやり寂しくも思ったりした。きっと、いきものがかりは、幸せの象徴でもあったのだ。


それから8年。2016年の暮れ。年末年始の支度をしていたら、胸を締め付けられるような歌詞をのせた懐かしい声が、テレビから聞こえた。いきものがかりの「ラストシーン」という曲だった。

 “涙がこぼれないように 君を思い出すけど
 いつも笑ってるんだ 少しずるくないかなぁ
 ねぇ 僕はあの日から強くなった
 そうでもないかな 風が笑った さよなら”

なんか、いきものがかりらしくない。
彼らが「さよなら」と言うことは、ほとんど無いのだ。こんなにも「不在」の誰かを歌うなんて、珍しい。すごく勝手だけど、いきものがかりそのものや、彼らを好きだったあの頃に「さよなら」と言われてる気がして、少し嫌な予感がした。

ほどなくして、彼らは活動を休止した。

身勝手に、深く後悔をした。
私は、いきものがかりをたくさん聴いたあの時代のように、過去のアルバムを掘り起こし、何度も聴いた。今はもうウォークマンではなく、スマホで聴けることにも、時の流れを感じさせた。

そこで気付いたのは、いきものがかりは全て、決して「前向き」ではなかったことだった。

たとえば、「茜色の約束」は「死」をテーマにしているし、「ブルーバード」は「墜ちるのを知ってても羽ばたく」。「SAKURA」なんかは絶対叶わない恋だ。

この人たちこそ、深い悲しみの上に、喜びを立ち上げる人たちなんだと、恥ずかしいけれど、8年の時を経て、初めて知った。
この時、あの頃よりももっと透明な気持ちで、両親を早くに亡くした父が「帰りたくなったよ」で泣いた理由が、分かった気がした。

いきものがかりの歌は、一見、みんなが共感できるようなきれいな歌詞が多い。
でも、聴き手の人生の経験値に即して、その最も大切なタイミングに、そして、心のピンポイントに、必ず響くように作られているんだ。

だから、高校生にも、お父さんにも、老夫婦にも、幅広く知られたんだ。


確かに大学生の私には、彼らの曲は必要なかったかもしれない。でも、また新たな環境に繰り出した今、いきものがかりの歌は、とてもあたたまる。邪のないその聖性を、強く求めてしまう。

あれから十数年生き、“結婚”の文字が見えだしている今。「抱きしめても 届かない想い」があるなら「ふたり」を聴くし、感謝があるなら「ありがとう」を聴いて手を繋ぐ。当時、それとなく聴いていたが、今なら心の底から理解できる。

きっと、また8年、さらに10年、50年経てば、また違う角度から、いきものがかりの歌に励まされるのだと思う。彼らの音楽があれば、曇りなき素朴な光が、未来から差してくる気がする。
  • 投稿作品の情報を、当該著作者の同意なくして転載する行為は著作権侵害にあたります。著作権侵害は犯罪です。
  • 利用規約を必ずご確認ください。
  • ハートの数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。
音楽について書きたい、読みたい