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カインド・オブ・レディオヘッド。

トム・ヨークとマイルス・デイヴィス。

レディオヘッドは前身のバンド、オン・ア・フライデーの期間を含めると、80年代からこの世に存在することになる。もうこの世に生まれて、30年以上経過している。レディオヘッドとして『パブロ・ハニー』『ザ・ベンズ』を発表したのは、20年以上前になるのだ。私は十代の頃から彼らの作品を聴いているが、今の若い人たちは彼らのことを知らないだろう。ニルヴァーナやオアシスと並んで、古典ロックになっているのだろう。

『OKコンピューター』はもはや名盤であり、近年、リイシューもされた。『ザ・ベンズ』から2年で随分な変化が彼らの中で起きていたのだろう、『ザ・ベンズ』は辛うじてブリットポップだったかもしれないが、『OKコンピューター』はポップじゃない。レディオヘッドとしての、トム・ヨークとしてのソリッドな音の塊である。私は高校のときこのCDを聴いた。そのときは、いまいちピンと来なかった覚えがある。

それから時が流れて、近年、マイルス・デイヴィスの『ビッチェズ・ブリュー』という二枚組のアルバムを聴いた。私は20代後半からマイルスを聴き始めて、特に好きだったのが『カインド・オブ・ブルー』だった。マイルスの音楽は、重さがない。優れた演奏が、ひとつひとつの楽器が軽やかで、美しい。特に『カインド・オブ・ブルー』の二曲目、「フレディ・フリーローダー」は、曲の空気、優れた演奏の醸し出す雰囲気がとにかく美しい。話を戻す。『ビッチェズ・ブリュー』である。このアルバムは、穏やかでない。楽器、演奏が、ノイズ交じりである。クールさが控えめである。だが、でたらめには聞こえない。

レディオヘッドの『OKコンピューター』を聴いてから『ビッチェズ・ブリュー』を聴くと、まさに90年代にトムがやりたかったことを、マイルスが1970年に行っていたのだと気づく。『ビッチェズ・ブリュー』はジャズにしてはアバンギャルドである。奇抜だ。『OKコンピューター』も、ロックにしてはキレがある。どう聴いてもポップではない。ブリットポップの時期に、こうした変則的な作品を作ることは、勇気がいるだろう。

リチャード・D・ジェイムスもそうだったと思う。90年代に残した諸作品は、アンビエント作品もふくめ、テクノの範疇に収まるものではなかった。エイフェックス・ツインはポリゴン・ウィンドウ名義でも作品を残していて、そちらはやや聴きやすいテクノである。90年代のブリットポップにしても、テクノにしても、それが「産業」になってしまうと、既成の枠を超えようとしても、なかなかそうはいかない。ブラーやオアシスは、曲が優れていたゆえ、今でも聴かれている。大多数のブリットポップは、くたばっている状態である。

マイルス・デイヴィスの残した80年代の作品に、マイケル・ジャクソンの「ヒューマン・ネイチャー」のカバーがある。マイルスはこの曲を高く買っていたという。いずれ、ジャズの定番になるだろうと思っていたらしい。そういえば、クロアチアのイケメンデュオ、2CELLOSも「スムーズ・クリミナル」とこの曲を演奏していた。「ヒューマン・ネイチャー」はポップスとしてあまりにも出来が良かったため、演奏されている。

マイルスはセンスの塊だったため、「ヒューマン・ネイチャー」が生き残ると予言した。トム・ヨークにはそこまでのセンスはないけど、「パラノイド・アンドロイド」を97年に作れるほど、才能がある。トムがかつて演奏を嫌がっていた「クリープ」も、あちこちで歌われている。レディオヘッド自身、近年のライブでも演奏している。マイルスはどこまでも音楽家だったのか、平気でジャズの垣根を越えて曲を演奏してみせる。レディオヘッドは、トムは、音楽家というより、ロック・ミュージシャンだろう。彼はブリットポップではない。ロックである。ブリットポップであれば、『キッドA』『アムニージアック』は作れなかった。リチャード・D・ジェイムスはどこまでも彼自身でしかないので、これからもドリルンベースを披露し続けるだろう。

ふとした機会に『ビッチェズ・ブリュー』を聴いたため、97年の『OKコンピューター』、そしてエイフェックス・ツインを連想してしまった。むろん、マイルスとトムはまったく似たところがない。トムが『OKコンピューター』に臨むさいに『ビッチェズ・ブリュー』を聴いていたのは、インスピレーションを求めていたのだろう。トムがCANを聴いていたのも、創作のヒントが欲しかったためだと思う。音楽は、ロックは、偶然から名作が生まれることもあるのだ、ということを、深夜に「ヒューマン・ネイチャー」を聴いて思う。

ジャズが好きなミュージシャンで、トムと一緒にアトムス・フォー・ピースをつくったフリーがいる。フリーはマイルスというより、コルトレーンだろう。このふたりが残したアルバムも、これから生まれてくるレディオヘッドのリスナーには、ぜひ聴いてほしい。
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