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「僕」はいったい何者なのか?

変貌する男と眺める男ーSixTONES『僕が僕じゃないみたいだ』とそのカップリング群に寄せて

発売から2ヶ月近く経ったこの音源を、私は今のところ毎日聴いている。
表題曲『僕が僕じゃないみたいだ』は、メンバー松村北斗の主演映画『ライアー×ライアー』の主題歌だ。
SixTONES公式サイトでは「自分が自分らしくいられないもどかしさを"ウソ"で繕おうとしてしまう男心を歌ったラブソング」と紹介される。

ただ、この曲はそれだけに留められない物語性の高さを有している。
初回盤Aのカップリング『Strawberry Breakfast』、初回盤B『Bella』、通常盤『Call me』と並べたとき、ひとつの連作短編のはじまりのような機能も立ち上がってくる。
(通常盤のもうひとつのカップリング『NEW ERA (Japanized Rearrange)』については、過去発売されたシングルのリアレンジのため、今回は割愛する。)

いずれも主人公は一人の男だ。
『僕が僕じゃないみたいだ』に登場する男は、公式サイトに説明されるように、恋愛によって自分が自分らしくなくなっていくことにもどかしさを感じている。
ここにあるのは、極めて純粋な恋心だと思う。
自分をよく思ってほしいからこそ「今までの自分じゃ 君といられない」と焦り、嘘を重ねていく。自分を変貌させていくなかで、「こんな僕も悪くないな」とひとり呟く。「どうしてくれんだ どうかしてんだ 」と相手に原因を求める。「笑えるな 君のせいだ」と困惑しつつも、そんな自分を受け入れていく過程を丹念に歌い上げる。

変わって『Strawberry Breakfast』は「君」との恋を成就させて、きらめいた日常をともに過ごす相手に「主演女優賞」をあげようとする、幸せな自信家の男が語り手になる。
恋愛の絶頂期にあるこの男の世界には、「君」と「僕」の二者しか存在しない。困惑したところから自分を作り替えた結果としての恋愛の成就。自分を変えてくれた君がいる。だからこそ、「何気ない日々の全てが 名作に生まれ変わる」。

初回B『Bella』は遊び人気取りのちょっと気障な男が主人公となる。レゲトンに乗せて、どこかのナイトクラブでセクシーなお嬢さんを口説き落とす。単体で見れば、あくまで一貫して、遊び人の一夜の歌だ。
しかしここで『僕が僕じゃないみたいだ』を思い起こすと話は変わってくる。『僕が僕じゃないみたいだ』の主人公は一途な男だった。『Bella』の男は随分軟派だ。「君」に影響されて自分を変えた。きっとその試みはうまくいき、人生の絶頂を迎えた。けれど恋愛に破れ自暴自棄になった男という読み替えもできるだろう。

通常盤『Call me』を歌うのは、叶わない恋を知りながらも君への思いを優しさでしか吐露できない男だ。きっとこの男は、「君」のことを思うあまりに心の柔らかいところを増幅させた。この男もまた、恋愛は成就していない。
ただ、この男には、僅かばかりの可能性が残されている。恋愛によって傷ついている相手に、「Is he true and honest to you?」と問いかけられる関係にいるのだ。
また、彼女を傷つけるのは「his stupid lies」、彼女の恋人によるつまらない「嘘」なのである。

こうして全体を俯瞰したとき、『Call me』が最後に置かれる意味が出てくるだろう。

『僕が僕じゃないみたいだ』の男は、あくまで「君」に誠実であるために嘘をつく男だっただろう。『Strawberry Breakfast』の男は、恐らく「君」を手に入れて、そのあとも「君」を幸せにしようと嘘つきであることを辞められなかった。そして恋破れた『Bella』の主人公は、その穴を埋めるかのように、一夜限りの関係を求める。『Call me』の男だけは、ここまでの一連の物語の主人公ではない。『僕が僕じゃないみたいだ』から『Bella』までに登場する「君」の近くに居続ける、物語の全容を知る人物ではないか。


勿論音楽を聴いている人によって解釈は様々に変わるので、今の私の捉え方を否定する人もいるだろう。私自身も、これからの経験によって捉え方が変容し続けるはずだ。
一つずつが独立性を保ちながら、物語として想像させる余白を残しているSixTONESの音楽。文学的な楽しみも与えてくれる、彼らの音源の完成度の高さは、これからも更新され続けていくはずだ。
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