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「ブラック・ミュージックの影響・要素」とは?

ミゼル・ブラザーズの創造したブラック・ミュージックは「影響」を与えているのか。

昨今のミュージックシーンにおいて、国内外問わず70〜80年代の日本のシティ・ポップが人気と言われている。
そのシティ・ポップとは、ざっくり言えば70年代のソウルやファンク等のブラック・ミュージックをベースに、70年代中盤のディスコ以降のメインストリームのブラック・ミュージック、謂わばAORやフュージョン、ブラコンと共振しつつ、さらにはボサノヴァやカリプソ、フレンチポップ等のワールド・ミュージックにも影響を受けた洗練された耳馴染みの良いソフトでスムーズな音を、超絶テクニックをサラリと織り交ぜながら表現する日本のポップ音楽と言えるであろう。

また、現在の日本のヒット・チャート上位のミュージシャン達を表現する時に「ブラック・ミュージックの影響」や「ブラック・ミュージックの要素」と言う言葉が散見されるようになったが、そこで言う「ブラック・ミュージック」の意味する音もまた、ほとんどがスムーズで洗練されたものである。

一口に「ブラック・ミュージック」と言っても、そこには様々な音が、ジャンルがある。

同じブラック・ミュージックでも60年代末〜70年代初めのジェームズ・ブラウンやミーターズ、ディスコ全盛期にメインストリームでドロドロ、グチャグチャなブラックネスを垂れ流していたP-ファンク一派、さらにそれらの音楽に影響を受けたローカル・グループのフィジカルでイナたい、どす黒いファンクやソウル、ジャズ・ファンクをこよなく愛する自分にとってはディスコ以降の音はこ洒落過ぎていて物足りないが、そんな中でもいくつか愛聴するミュージシャンもいる。そのうちの最右翼がロイ・エアーズと、ここで話題にしたいミゼル(カタカナでは「マイゼル」表記もあり)・ブラザーズである。

両者に共通するのは、ただダンスするだけ、ただヒットするだけ、ただいいサウンドを創ると言うだけの音楽ではなく、その根底には深いブラックネスとストリートやゲットーのスピリットが根ざしている事である。

兄フォンスと弟ラリー、2人の経歴は、決して多くはないとは言え検索すれば日本語での情報が獲られるのでここでは触れないが、兄弟として注目を集めたのが、スカイ・ハイ・プロダクションズを立ち上げ、ドナルド・バードの「ブラック・バード」を制作した時であろう。

アフリカン・アメリカンの地位向上に意識的だったドナルド・バードは音楽においても意欲的であったが、世間一般の認識ではストレート・アヘッドなハード・バッパーであった。そんな彼がスカイ・ハイ・プロダクションズと共に、それまでとは全く異なる音楽を世に問うた。そのアルバムはジャズとは思えないほどのセールスをあげ、グラミー賞にノミネートまでされてしまう。

時は1971年。
泥沼化するベトナム戦争や過激化する公民権運動を背景に、ブラック・ミュージックではファンクが熱っ苦しい音を鳴らし、その定義を確立しつつあった。
またニュー・ソウルと呼ばれる事になる内省的な音を鳴らすミュージシャンも出てきた。

メインストリームから外れ、マイナージャンルへの道を辿っていたジャズにおいては、マイルス・デイヴィスの「ビッチェズ・ブリュー」を筆頭に、ロックやソウル等の他ジャンルとの融合を図る動きが活発になり、またコルトレーンの遺志を受け継ぎフリーなスタイルを先鋭化させる者もいた。


そんな混沌とした時代に、晴天の霹靂のごとく現れたのが「ブラック・バード」の爽やかでポップなわかりやすいジャズである。そうなれば当然こう言われるであろう。

「あんなものはジャズではない」
「奴はセルアウトした」

しかしながらその革新的なサウンドは大勢の人の心を捕らえる。やがて彼らの創造する音楽は「フュージョン」の代名詞とも言われるようになるが、二人は、「そんなものを創り出すためにやっていたわけではない」と憤りを示している。

その後はドナルド・バードを筆頭に、ボビー・ハンフリー、ジョニー・ハモンド・スミス、ゲイリー・バーツ、ブラックバーズ、L.T.D.、ア・テイスト・オブ・ハニーなど多くの作品を手掛け、「スカイ・ハイのサウンド」、「ミゼル・ブラザーズのサウンド」を確立、拡めていく。


一聴すればすぐにそれとわかるスカイ・ハイ・プロダクションズのサウンドはミュージシャンの個性を消してしまうものとして、オーヴァープロデュースとの批判も受けた。その後2人は10年ほどで業界から身を引いてしまう事になるが、その後のヒップ・ホップのサンプリングネタやレア・グルーヴにおいて、発表当時以上の評価を受ける事になる。

そんなスカイ・ハイの音を言語化するのはなかなか難しい。流麗なストリングスを使うが、フィリーソウルのように代名詞になるようなものではないし、フュージョンに多用されるエレピの音やスラップによるベース・プレイもあるが、それが彼らの音楽を特徴づけているわけではない。
リズム・パターンはファンキーだが、JBのような「ザ・ワン」や、ニューオーリンズのセカンド・ラインのように後ろに引きずられるようなもの、ディスコ以降のダンス・ミュージックに顕著な均一化された4つ打ちのキックとウラ打ちのハイハットもない。つまりこれと言った明確で絶対的なものはない。

あるのは曲としてその名の通り天高く舞い上がるような爽やかな高揚感である。

上記の通りこの時代、多くのミュージシャンのプロデュースを手掛けているが、やはりドナルド・バードの「ブラック・バード」から「プレイセズ・アンド・スペイシズ」に至る作品群を聴けばその素晴らしさは理解できるはずだ。

Black byrd
Mr.thomas
Lansana's priest
Street lady
Stepping into tomorrow Think twice
Change
Dominoes

バード以外にも
Do it fluid
Los Conquistadores Chocolates
Gentle smiles
Reason to survive
Love to the world
Harlem river drive

等、名曲の枚挙に暇がない。

ミゼル・ブラザーズの事を書くために最近の音楽を色々と聞いてみたが、似た音はたくさんあるが、まさにこれこそスカイ・ハイ、と言う音はなかった。
何人かのインタビュー等を見たり、評論家によるシティ・ポップの評論も読んだりしたが、海外のAORやフュージョン、90年代のフリー・ソウルへの言及はあれどミゼル・ブラザーズやスカイ・ハイ・プロダクションズに触れている発言や論評は皆無であった。

だからといって彼らの表面上はスムーズな音楽は「フュージョン」と言うジャンルの中に押し込められてその一部になってしまったわけでもない。
例えば「フュージョンの名盤」と言う企画に、数枚の作品が選ばれる事はあるが、彼らの音楽が大々的に取り上げられる事は少ない。
「ジャズ・ファンク」と言う小さなジャンルに分類される事はあるが、グラント・グリーンや初期クール・アンド・ザ・ギャングと較べれば音が洗練され過ぎていて、違和感をおぼえる。

「レア・グルーヴ」と言うジャンルに分類される事がほとんどだが、この「レア・グルーヴ」とは、DJ等のネタになると言う意味で作られたもので、音そのものを表すジャンルではない。

DJ達がサンプリングネタやフロアを沸かすために彼らの音を求めるのは、その音楽と、根底に潜むスピリットやブラックネスを再現できているミュージシャンが後年においていないからであろう。

これだけフュージョン、シティ・ポップが持て囃される世の中で、単発のカヴァー曲は稀にあるが、スカイ・ハイ・プロダクションのトリビュート作品が存在しないのは、真似をしても、矮小化された単なる「フュージョン」や「ジャズ・ファンク」にしかならないからであろう。そもそもシティ・ポップとスカイ・ハイのサウンド似て非なるもの故仕方ないのだが。

逆説的に言うならば、ただの「良い曲」でしかなかったら、多くのミュージシャンにカヴァーされ、もっと大衆性を持ち得たかもしれない。
しかしながら前述の通り、彼らの音楽は「超絶テクニック」(チャック・レイニーやハーヴィー・メイソンのようないくらでも「超絶テクニック」ができるミュージシャンを多く起用しているのに、そのテクニックに頼らない音作りである)だの「耳障りの良いスムーズ」だのと言ったわかりやすい記号を持つ凡百のフュージョンやAOR、シティ・ポップとは異なるのである。心地よい表面上のサウンドのすぐ裏にはむせ返るほどのブラックネスが息づいているのだ。

もっと直言すれば、ミゼル・ブラザーズ、スカイ・ハイ・プロダクションズの音は、誰にも真似できない唯一無二のものであり、カヴァーが少ないという事はその証左だ。

とは言え結局の所、ジャズ・ファンからすればポップ過ぎるし、ロックやポップス・ファンからすればジャズでもポップスでもないと言う微妙な立ち位置故に(特に日本において)誰もが知る存在にはならなかった。


ミゼル・ブラザーズについて多くの字数を費やしてきたが、その才能を信じ、プロデュースを委ねたミュージシャンたち、特にドナルド・バードにも最大限の敬意を。
ミゼル・ブラザーズと組む前のエレクトリック楽器を導入した「ファンシー・フリー」や「エチオピアン・ナイツ」のザラついたファンクも素晴らしい。
前者は表題曲をグラント・グリーンが名ライヴ盤「グラント・グリーン・ライヴ・アット・ザ・ライトハウス」にて、鬼気迫るカヴァーをしている。
後者はフォンスが一部参加している。


未来を予想する事は困難だ。シティ・ポップやフュージョン、AORはこれからもリサイクルされ続けるだろうが、今後のミュージックシーンにおいてジャズでもなく、フュージョンでもなく、ソウルでもファンクでもなく、ましてやロックでもないが、それら全てでもある彼らの音楽が大々的に脚光を浴びる時が来るのかどうかはわからない。

それでも密かに、実に謙虚に、好事家達の中ではその音は聴き継がれ、語り継がれるであろう。


ロバータ・フラックがスカイ・ハイ・プロダクションズを評して放った言葉が彼らの音楽の全てを表す。

「プロフェッショナルにして控えめ」
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