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リーガルリリーは暴力性を持って内在する

私を殺ったおんがくのこと

無精な私に、随時あたらしく音楽を教えてくれるガールフレンドがいる。

彼女は「夏の匂いがするね」なんて、私が照れて言えないからエッセイに書いているようなことを、あっけらかんと言うひとだ。あまりに平然と言うので、こちらの方が、照れていてはもったいないかと思い直させられてしまう。そういうエネルギー(?)も持ったひとだ。

彼女が住んでいるワンルームに、私はよく遊びに行く。いつ遊びに行っても音楽が流れている。もしかすると彼女の血管には音も一緒に流れているのではないか、音楽を止めてしまったら彼女も死んでしまうのではないか。なんて思ったりする。
そんなバカなことはないだろうから決して口には出さないが、口にしても彼女は別に笑わないと思う。ふうんとか言いながら、プシューとビールを開けるんだろうな。

リーガルリリーの楽曲を初めて聴いたのも、彼女の部屋だった。リッケンバッカーという曲だった。
詞が最高にすきなので、全文引用する。



リッケンバッカー 作詞・作曲 たかはしほのか


きみはおんがくを中途半端にやめた。
きみはおんがくを中途半端に食べ残す。

リッケンバッカーが歌う
リッケンバッカーが響く
リッケンバッカーも泣く
おんがくも人をころす。

明日に続く道が今日で終わるなら
このまま夜は起きない。きみを起こす人も消えて
地球の骨の形が少しだけ変わるのさ。

きみはまいにちを中途半端にやめた。
きみはまいにちを中途半端に食べ残す。

明日に続く道が今日で終わるなら
このまま夜は起きない。きみを起こす人も消えて
重ねたエゴの形が燃え尽きて星になるのさ。

リッケンバッカーが歌う
リッケンバッカーが響く
リッケンバッカーも泣く
おんがくよ、人を生かせ

ニセモノのロックンロールさ。
ぼくだけのロックンロールさ。”


飾りのないことばは強い。ほとんど音に近いからこそ、ひとびとの内であらゆる意味を持ち、生きる。私も侵入してくる彼女たちのおんがくに抵抗できなかった。
自分が今かじりついているものを思い浮かべる。中途半端に食べ残したなにかに殺されそうなひとはどれだけいるだろうと想像する。

たかはしほのかの詞に殺られた人間は私だけじゃないと思った。というより、私以外にもなるべくたくさんいてほしかった。YouTubeのコメント欄にわざわざコメントを残すのは、きっとそういう人間たちなんだろう。俯瞰して胸を撫でおろす、快感と不快感。


突き抜けてかっこいい音楽に出会ってしまった瞬間、呼吸ができなくなる。
無垢な音につけられた数多の細かい切り傷に酸素がしみ、自分は細胞が集合して生まれたのだということを思い出す。全身は無邪気にさんざめき、トクトクと、その音楽に侵されていく。

私もあのとき、彼女たちのおんがくを織りこまれたのだと思う。
私の心身なのに意思が及ばず、かといって全くわけがわからないわけではなく、たしかにあの部屋で、私はリーガルリリーに侵されていった。おんがくは、その暴力性を持って今も私に内在している。


「これ、なんてバンド?」
「リーガルリリー」
「いいね」


でしょ?と言ったガールフレンドの内にも、同じおんがくはあるのだろうか。尋ねようとしたとき、曲がスキップされた。


講評
リーガルリリーの“リッケンバッカー”に「殺られた」記憶が、引用された歌詞とともに、みずみずしく綴られています。一見、衝動的に走り書きしたかのようなエモーションが溢れる、パーソナルなエッセイに読み取れるものの、実際は高い表現力や細やかな構成力を誇っているところが見事。リーガルリリーの魅力だけではなく、音楽にグッとくる瞬間そのものを臨場感たっぷりに描くことで、幅広い読者を引き込みました。
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